もっともっと、と手を伸ばした先には何もない。
何も掴めずに空っぽの手を仕方なく下げる。
これじゃあ幸せになれないと、欠けた部分を埋めるために悪戦苦闘して収穫は無し。結局傷が増えただけ。
欲しがっても無駄。
でも欲しい。
際限なく続く欲望が私の体を埋め尽くしている。
欲望のマンションみたいな私に、近づいてきて与えてくれる仏のような人も時折訪れるが、私はそれでも満足しない。
足るを知らない。
いつでも何か欲しい。
今よりも大きな幸せが欲しい。誰かよりも幸せな私になりたい。
何も持っていないくせに、何もあげられないくせに、与えられるのを待って、欲望の実が膨らんでいく。

違う、何も持ってないからだ。
私が、もし何もかも持っていたら。
美人でスタイルが良くて賢くてお金持ちだったら。
人に何かを求めるわけがないから。だってすでに持っているから。
人は足りない部分を相手に求めるのだ。
「足るを知る者は富む」
満足するということを知っている人は、たとえ貧しい状況にあっても精神的には豊かである。そんなことわざらしい。
「どうしたら満足するの」好きな男に言われた日。
強欲さを見透かされた気がした。
実は、本当に欲しいものは、もっと大きくて重くて言えないんです。
だから、私がしたいことも、欲しいものも、全部、代用品なんです、とはさすがに言えなかった。

足るを知らないと満足することなんて一生ないのに、理想を下げることもできない。
そんな私に母が言ってくれた。
「あんたは欲深い。
でも欲深いのは悪い事ばかりじゃない。
欲深いからそこまで必死で頑張れたんじゃない」
そうだ、私それなりに頑張ったな。欲望の深さ故、真面目に頑張ってきたな。
自分の理想のため、これまで頑張ってきたな。
頑張りすぎて折れられなくなって、更に理想が高くなって、そんな風に自分で自分の首を絞め続けた気もするのはさておき。
呆れながらも肯定してくれる言葉をくれる母もいる。私は充分に満ちている。
いつか、足るを知れる気がする。
立ち止まって、持っているものだけを愛せる気がする。
でもまだ知らない。
私もう少し欲しがってもいいかな。
色々手に入れようと藻掻いてもいいかな。欲張りでいいかな。
もう少し貪欲に頑張ってみたい。

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